「蓮華(れんげ)に鼓草雛(たんぽぽびな)」

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古来、自然の移ろい、人生の機微に触れて感じ取ることから生まれる「もののあはれ」を伝えるものとして和歌や物語、絵画、工芸などの題材として表現されてきた秋草。秋草とは対照的な春草は、伸びやかでほのぼのとした懐かしさを感じさせてくれます。王朝文化の憧れから独創的な表現、創造を広げた本阿弥光悦・俵屋宗達に始まる「琳派」の系譜では、土筆(つくし)、蕨(わらび)、蓮華(れんげ)、菫(すみれ)、鼓草(蒲公英/たんぽぽ)、菜の花、桜草、苧環(おだまき)などの春草を題材に、秋草と同様に人事と自然の共存を絵画や工芸などに込めて表現しました。

光悦・宗達が憧憬した平安時代、清少納言は『枕草子』の第百五十一段「うつくしきもの」で、「雛の調度。蓮の浮葉のいとちひさきを、池より取りあげたる。葵のいとちひさき。なにもなにも、ちひさきものはみなうつくし。」と綴りました。「ひいな遊び」のために用いられた調度には、『源氏物語』第7帖「紅葉賀」に書かれている幼い紫の上が遊んでいたような豪華な雛道具のようなものもありましたが、一般には自然の草花を摘み取って遊びの道具としていました。『枕草子』では、蓮の浮き葉を池から取り上げたもの、葵の小さな葉を調度に見立てた草花遊びの想い出のなかに愛らしさと美しさを見出しました。

可憐さの内に動じない力強さを内に秘めて人の心に温かで懐かしさを想い起こしてくれる春の野の花たち。画像は、2016年の「雅な雛のつどい展」のテーマとして制作した花雛の一作です。春草の中でも、草丈が低く、草花遊びの素材として親しまれてきた蓮華(れんげ)と鼓草(たんぽぽ)を雛に見立て、衣の色で春の気配を表しました。

” Flower hina doll ”

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