植物と文学:Plant in the literature」カテゴリーアーカイブ

曙花

山もとの 鳥の声より 明けそめて 花もむらむら 色ぞ見え行く(玉葉和歌集:永福門院)
Yama moto no tori no koe yori ake somete hana mo muramura iro zo mie yuku
(Gyokuyou wakashū:Eifukumonin)

春のあけぼの。山のふもとで鳥の声がして、夜が明け始め、桜の花色が少しず浮かび上がって見える景色を詠まれた一首。

『新古今和歌集』以後、王朝的なものが影をひそめていく中世。そうした時代を背景に『万葉集』を拠り所に新風を興した京極為兼が撰者となった、第14番目の勅撰和歌集『玉葉和歌集』に撰集された一首です。京極派を興した京極為兼は、万葉時代のように心に起こる所のままを表現することを目指しました。一首を詠んだ永福門院(えいふくもんいん)は、京極派を代表する歌人の一人として、為兼の唱える心を本位とした真実の感動を詠みました。

一首は『玉葉和歌集』春下で、「桜」を題とした中に排列されています。詞書に「曙花(しょか)」と題されいるとおり、一首は鳥のさえずりから始まり、まだ仄暗い明け方のなかで、あちらこちらで咲く桜の白い花色が浮かび上がってみえてきます。天象の刻々と変化していく中で、細やかに自然を捉えた表現に京極派独特の感性が表れています。

また、門院の御歌に多く見られる「むらむら」という語彙が一首にみられるように、感覚に即して事象を鮮明に表現したところに、自然を深く凝視されたことが窺えます。聴覚と視覚により時間の推移を捉えた一首は、春のあけぼのを幻想的に伝えます。

春の情景を夢幻的に詠まれた一首を書で表しました。

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おしなべて

おしなべて 花の盛りに なりにけり 山の端ごとに かかる白雲(千載和歌集:西行)
Oshinabe te hana no sakari ni nari ni keri yamanoha goto ni kakaru shirakumo
(Senzaiwakashū:Saigyou)

見渡す限り花盛りとなった。いずれの山の端にも、ほんのりと山桜が白雲のようにかかって見えると詠まれた一首。

藤原俊成が撰者となった、『千載和歌集』春上で「桜」を歌題とした中に排列されています。西行の一首は、山々を埋める山桜を白雲に見立て、穏やかに広々とした花盛りの景色を詠みました。一読して意味がよくわかり、穏やかで余韻を感じます。西行の一首は、抒情豊かで格調高く、俊成の歌の理想とした志向と合ったものと思います。

麗らかな春景色をおおらかに詠まれた一首を書で表しました。

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八重山桜

いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に にほひぬるかな(詞花和歌集:伊勢大輔)

奈良の僧都から宮中に進上された八重桜を詠まれた一首のとおり、古都に咲く雅な趣を漂わす八重山桜。伊勢大輔の一首に寄せ、白い控えめな花が優美で落ち着きのある、閑雅な山桜を和紙の繊細な色合いと線描によって表しました。

 ” Cherry Blossoms” 

「植物」
2024年3月26日(火)~3月31日(日)
gallery DAZZLE( 東京 北青山 )https://gallery-dazzle.com/

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水の面に

水(み)のおもに あやおりみだる 春雨や 山のみどりを なべて染むらん(新古今和歌集:伊勢)
Mi no omo ni aya ori midaru harusame ya yama no midori wo nabete somuran
(Shinkokin Wakashū:Ise)

池の水面を綾織るように乱す春雨。春雨が山を緑に染め上げているのであろうか、と詠まれた一首。

古今時代を代表する女流歌人、伊勢の詠んだ一首は『新古今和歌集』春歌上で「春雨」を歌題とした中に排列されています。一首は『新古今和歌集』の詞書に記された、「寛平御時后宮の哥合哥(かんぴょうのおおんとき きさいのみや の うたあわせ うた」とあるとおり、紀貫之をはじめ、古今時代を代表する歌人が集う、歌合せで詠まれたものです。

春の野山に降り注ぐ春雨が、水面に綾を織りなすように波紋を映し出し、山に降り注いだ春雨が若葉の緑を染め上げているのだろうか、と詠みました。鏡に見立てた水面に映る波紋に着目し、萌え出たばかりの瑞々しい若葉の緑を鮮やかに浮かび上がらせます。

清新な春の情感を細やかで、色彩豊かに捉えた一首を書で表しました。

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