柳桜の色紙飾り

yanagisakura-16-1

江戸の花雛の面影を泉鏡花の『雛がたり』を拠り所に『見渡せば柳桜をこぎまぜて 都ぞ春の錦なりける』(古今和歌集:素性法師)の和歌から着想したものを色紙に表しものです。

『雛がたり』は、鏡花が6歳、7歳の頃に記憶した雛の節句の思い出を辿っていくなかで、母の持っていた雛の幻想が春の情景のなかで綴られています。『雛がたり』では、素性法師の和歌以来の美意識が随所に現われています。例えば、「白酒を入れたは、ぎやまんに、柳さくらの透模様(すきもよう)」とあるように、柳桜と雛の節句の季節感を結びつけています。とくに『雛がたり』の終盤、橋詰めにあるしだれ柳の浅翠の枝によって河原に敷かれた緋毛氈に雛壇が飾られた幻想をみるところは印象的です。

しだれ柳は奈良時代に中国より柳に託されてきた文化と共に日本に渡来し、都の朱雀大路を中心とした街路樹をはじめ、川の護岸などに広く植えられ、春を象徴するものとして捉えられてきました。柳の枝には、強い生命力、繁殖力があり、幸福と健康、繁栄が託されてきました。11世紀に中国の宋時代の詩人、蘇軾(そしょく)は春の景色を「柳は緑、花は紅」と詠じました。花は色とりどりに咲き誇り、自然のあるがままに生きています。「柳緑花紅(りゅうりょくかこう)」は、あるがままの春景色の素晴らしさを例える言葉として用いられてきました。
また、しだれ柳の浅翠のしなやかな枝は機織や染物を司る春の女神とされた佐保姫の染めた糸に見立てられ、春風と取り合わせて数多くの和歌が詠まれました。『雛がたり』の終盤に柔らかい風によってめくれた緋毛氈がしだれ柳にからむ光景は、鏡花が風に春の到来を告げる佐保姫を感じ取り、雛の幻想が浮かび上がってみえたと思わせます。鏡花は、古からしだれ柳に込めらてきたものを背景に、浅翠という色名に込めています。

春の柔らかな風と瑞々しい浅翠のしだれ柳、そして山桜を柔らかな質感の和紙で表しました。色紙の正方形の制約と短冊の幅の制約を2つの素材を取り合わせ、幅と長さを出しました。

” Willow & Cherry Blossoms ”

「雅な雛のつどい展」
2016年 1月27日(水)~2月2日(火) 
日本橋三越本店 新館8階 ギャラリーアミューズ
http://mitsukoshi.mistore.jp/store/nihombashi/event/index.html

にほんブログ村 美術ブログ 工芸へ
にほんブログ村