袖ひちて むすびし水の こほれるを 春立つけふの 風やとくらむ(古今和歌集:紀貫之)
Sode hichite musubishi mizu on kohoreru wo hautatu kefuno kaze ya toku ramu
( kokin Wakashū :Ki no Tsurayuki )
夏に袖が濡れて掬った水が春になり、冬の間凍った水を東風が融かしてくれるだろうか、と立春を迎えた悦びを詠まれた一首。古今時代を代表する貫之の一首の詞書に「春たちける日よめる」とあるとおり、『古今和歌集』春歌上の立春から始まる第2番目に排列されています。
『古今和歌集』は中国詩の影響が色濃く表れています。紀貫之が詠んだ一首もまた、『礼記(らいき)』にみられる「孟春(もうしゅん)ノ月(つき)、東風氷ヲ解ク」にあるとおり、東風が氷を解かして春の訪れを告げるとした思考を背景として詠まれたことが窺えます。
貫之は、まだ冷気の残る中、氷が解けて山には霞がたなびき、草木が芽吹く春に立ち返る悦びを、清らかな水に託しました。春の訪れをみやびやかに詠まれた一首を書で表しました。
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