春霞 たなびきにけり 久方の 月の桂も 花や咲くらむ (後撰和歌集:紀貫之)
Haru kasumi tanabiki ni keri hisakata no tsuki no katsura mo hana ya saku ramu (Gosen Wakashū:Ki no Tsurayuki)
春霞がたなびく季節の到来に寄せ、月の桂にも花が咲くと思えるほど、うららかな春の気配を実感できると詠まれた一首。
”月の桂” とは、古代中国の伝説の中にある、月に生えているといわれる桂の大木をいいます。月の桂に掛かる枕詞、”久方の”は永遠なものという意味が転じ、月をはじめとして天空に関わるものに使われてきました。春霞がたなびく春の象徴的な風景を月に想いを馳せて、天にも地にも春の気配が広がっていることを印象付けています。
日本の山野に自生する桂は、真直ぐに天に向かって伸び大木となり、春には控えめな花が展開します。山野に自生する桂の木と中国の伝説の月の桂にイメージを重ねたスケールの大きさを感じる一首です。
壮麗な春景色に寄せた一首を書で表しました。