琳派と春草

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日本の四季の中で寂寥感を醸し出す秋草は、「あはれ」を伝えるものとして和歌や物語、絵画、工芸、服飾品などの題材としてさまざまな様式で表現されてきました。
万葉集にある山上憶良(やまのうえのおくら)の「 秋の野に咲きたる花を指(および)折り かき数ふれば 七種(ななくさ)の花 萩の花 尾花葛花 撫子の花 女郎花また藤袴 朝貌(あさがお)の花 」という秋の七草を詠んだ歌に代表されるように、四季のなかでも秋の草花に格別な想いを寄せてきました。

秋草に対して、明るく伸びやかでほのぼのとしたもの、懐かしさを感じさせる春草。
王朝文化の憧れから独創的な表現、創造を広げた本阿弥光悦・俵屋宗達に始まる「琳派」と呼ばれる系譜では、土筆(つくし)、蕨(わらび)、蓮華(れんげ)、菫(すみれ)、蒲公英(たんぽぽ)、菜の花、桜草、苧環(おだまき)など春草を主題にした作品に独創性を感じます。

萩に代表される秋草の繊細で優美な趣のものとは対照的な土筆や蕨、菫など素朴で侘びた風情の春草。春草も秋草も、野辺にあるもの、身近に自生しているものです。
秋草は、風になびく様や月の移ろいとなど動的なもの、移ろいゆくものと取り合わせられることも多く、「あはれ」を誘うものを伝えてきました。
琳派では、春草には秋草とは対照的に、しっかりと大地に根を張り、可憐さの内に動じない力強い生命感、人の心に懐かしさと和やかさを想い起こしてくれるものを求めていったように思います。
なだらかな曲線で小高く盛り上がった地面を図様化した土坡(どは)に土筆や蕨がシンプルに表されたものからは、春ならではの情趣があり、俳諧が普及した時代背景からも春草に心を寄せる想いを感じます。
春草に美を見出し、野辺の情景に託して「もののあはれ」と表現される雅でしみじみとした情趣を和歌や物語、謡曲など古典を題材に明るく生き生きと伝えているところに時代の勢いを感じます。

江戸後期の江戸琳派による春草を雛に見立てた雅な花雛も、そうした流れの中で描かれていったものと思います。
画像は、蓮華と蒲公英を旧暦の上巳の節句に寄せて、雛に見立てて扇子にあしらったものです。

”Spring wildflowers”

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