山深み春ともしらぬ松の戸に 絶え絶えかかる雪の玉水(新古今和歌集:式子内親王)
Yama fukami haru tomo shiranu matsu no to ni taedae kakaru yuki no tama mizu
(Shinkokin Wakashū:syokushi naishinnou)
深山での遅い春の到来の喜びをとぎれとぎれに落ちかかる雪解けの滴(しずく)に見出した一首。
式子内親王は、後白河天皇の皇女で和歌を藤原俊成に師事し、俊成の子の藤原定家とも親交があった、新古今時代を代表する歌人です。内親王薨去前年に、後鳥羽院に詠進した百首歌「正治初度百首歌」にある一首です。
円熟した静かな境地で自然観照したなかで、雪解けの滴(しずく)を”雪の玉水”と創意した結句の優美な詞によって、しっとりとした気品ある式子内親王独特の世界が広がってみえます。”絶え絶えかかる”という詞によって、とぎれとぎれに落ちる玉水を捉えた視点は、日本独特の”間”による情趣があり、春の訪れの喜びが繊細で美しい詞を引き立て心に響きます。