難波潟

難波潟 みじかき 蘆のふしのまも 逢はで この世を すぐしてよとや(新古今和歌集:伊勢)
Naniha gata mijikaki ashi no fushi no ma mo ahade kono yo wo sugushite yo to ya
(Shinkokin Wakashū:Ise)

難波潟に生い茂る蘆(アシ)の茎の節と節の間の短さほどの、ほんの短い時間でも逢うこともせず、むなしく過ごせとおっしゃるのですか、との想いを詠んだ一首。一首を詠んだ伊勢は、古今時代の代表的な女流歌人です。恋歌を私的な歌から公的な晴れの歌として発展させたことに貢献しました。

イネ科の多年草の蘆(アシ)は、葦、芦、葭という漢字でも表記されます。タケやアシなどの節と節の間を古語では「よ」と言い、一首では世と夜を掛けています。アシは、成長すると人の背丈よりも高くなる植物です。春先に芽吹いた若芽は、節と節の間が短く、成長するに従い長くなります。アシの草丈が高くなる特性から、”みじかき蘆”と節と節の間が極めて短いことを強調して表現したところに、時の短さが深く印象付けられます。

難波潟はアシの名所として『万葉集』の時代より、歌に詠まれてきました。水辺のアシの群生は、春の芽吹きの美しさ、夏の水辺の涼やかさ、晩秋から冬にかけて刈り取られた風景の寂しさなど季節によって表情を変化させます。
また、『万葉集』に遡ると難波の人が葦(アシ)を燃料として焚く家が煤(すす)けて古びることに喩え、常に変わることのない妻への愛情、ほのぼのとした家庭の温かさを想い起させる、「 難波人(なにはひと)葦火(あしひ)焚く屋の 煤(す)してあれど 己(おの)が妻こそ 常めづらしき 」(巻十一:よみ人知らず)が見られ、アシは詠む人の心によって、たおやかで多彩な表現を見せてくれます。

作者の心情を難波潟のアシのイメージによって、平明に伝えた一首を書で表しました。

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