紫の ひともとゆゑに 武蔵野の 草はみながら あはれとぞ見る (古今和歌集:よみ人知らず)
Murasaki no hito moto yue ni musashino no kusa ha minagara ahare tozo miru (Kokin Wakashū:Yomibito sirazu)
紫とは、紫根(しこん)と呼ばれる根に紫色の色素成分を持ち、染料とされた紫草(むらさき)をいいます。紫草は夏季に白い花を咲かせます。花は小さく目立ちませんが、古の人は高貴を象徴する” むらさき”色の染料となり、その染料の美しさから紫草に心惹かれました。
一首は、紫草が一本あるために、紫草の生えている同じ武蔵野の草すべてが、ゆかりのあるものとして懐かしく、愛おしく思うと詠んだものです。紫草への愛着を詠んだところから発展し、愛しい女性を紫草に見立て、その女性とゆかりのある人、すべてが懐かしく思われると解釈されるようになり、定着しました。
また、武蔵野は古代から中世にかけて、京の人々が憧れをもって、和歌や物語に詠まれてきました。一首は、どこまでも続く原野のイメージを持った武蔵野を舞台にした心和む優しい物語を想像させます。
葉脈の筋がはっきりとした葉の上に、控えめに清楚な純白の花を咲かせる紫草を和紙で表したものを書と取り合わせ、武蔵野の原野に咲く光景を詠んだ一首をイメージしました。