椿雛

tubakihina

春の訪れ、雅な王朝文化への憧れが形になって表れた江戸の花雛。
洗練された江戸の花雛には王朝文化、『源氏物語』への憧れが形になって表れてきたことを「紅白梅雛」の記事(https://washicraft.com/archives/7137)で書きました。

平安時代の末期より戦乱の続いた中世を経て、徳川幕府の成立によって270年近く平和な時代が続きました。泰平の時代が続いたことで公家・大名をはじめ庶民に至るまで園芸への関心が高まり、花文化が栄えました。
桜・椿・梅・花菖蒲・菊・朝顔・紅葉をはじめ、さまざまな園芸種を生み出していく力になり、花の愉しみ方も洗練されていきました。
花雛が洗練されていった背景には、江戸の花文化の繁栄もあります。

平安時代の雅への憧れは、花のあしらい方にも表れています。
『椿』もそのひとつ。
その有り様は、江戸時代に椿を扇子や鼓、硯箱、花籠、折方などを使ったあしらいを精緻に描いた図絵から知ることができます。
調度品を使った花あしらいには、『源氏物語』の第21帖「乙女」で秋好中宮が和歌を添えて硯箱の蓋に色々の秋の草花や紅葉をあしらい、紫の上に贈った場面が連想されます。

春の夜の夢の浮橋とだえして峰にわかるる横雲の空(新古今和歌集:藤原定家)

『源氏物語』第54帖「夢浮橋」(ゆめのうきはし)を連想させる和歌を詠んだ藤原定家が、その歌論『近代秀歌』で「詞は古きを慕ひ、心は新しきを求め」と書き残しています。
江戸の花のあしらいにも定家の言葉に込めた精神が反映されていると思います。
そのひとつに和紙を重ねた雅な折形に花をあしらったものがあります。
シンプルに白い和紙を折った形に花をあしらったものもみられます。

和紙を使ったあしらいには、平安時代の文付枝、折枝への憧れが表れています。
季節の植物に消息(手紙)を添えた文付枝(折枝)は季節の花木に映える色の紙との取り合わせによって贈り手の人となりを窺うことができました。
言葉では言い表せない情趣が季節の花とそれに添えられた紙から心に響きます。
椿の図絵にある和紙を重ねた雅な折形に花をあしらったものに平安時代の文付枝(折枝)を思い起しました。
人に花を贈る形として、風雅なものとして花の持っている力に贈り手の人となりが偲ばれて花もより引き立ち、心に残ります。

画像の作品は、風雅な文付枝(折枝)から連想した椿を雛に見立てたものです。
花の銘にも雅なものを感じる椿。咲き方によって花の印象もさまざま。
それぞれの花のイメージを花雛に託してみるのもよいと思います。
白色のものは一重の筒咲きと先細りの雄蕊の調和が優美な「初嵐」(はつあらし)をイメージしたものを男雛に見立てました。
淡桃に紅のぼかしが入るふっくらとした可憐な印象の「西王母」(せいおうぼ)をイメージしたものを女雛に見立てました。
衣裳は亀甲と雲文様による吉祥の取り合わせ、白と金色の2色でまとめました。
白色の椿は薄口の手漉和紙の白、薄桃色の椿は染色の変化のある和紙を生かし表しました。
作品の高さは白椿雛が12cmほどです。

”Flower doll”

2015 1/28~2/3
『雅な雛のつどい展』

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