すみれのひいな

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江戸時代に流行した様式のひとつ、芥子雛(けしびな)に見立てたものです。
芥子雛とは、江戸時代中期以降に登場する小型の雛です。
時代が進むにつれて華麗になっていった雛の大きさが規制され、数センチほどの精緻な雛が現われました。

雛には立雛(たちびな)と坐雛(すわりびな)の形式に大きく分けられます。
初期の雛は簡素な立雛でした。立雛の衣裳が紙製であったところから、紙雛(かみひいな)とも呼ばれました。
泉鏡花の『雛がたり』にも紙雛(かみひいな)がみられます。
坐雛も初期は簡素でしたが時代が進むにつれて王朝文化の憧れが込められていきました。
時代の好みによって流行も生まれ、次々と新しい様式の雛が現われました。

雛に見立てたすみれは、『雛がたり』で鏡花の記憶にある「白と緋(ひ)と、紫(ゆかり)の色の菫雛(すみれびな)」からイメージしたものです。花雛の中でもはっきりと対になっていることが示された雛で、印象に残りました。
日本には野生のすみれがたくさんあります。どのようなすみれを取り合わせていたのか、想像してみました。
素朴な野の花を詠んだ歌が数多く選ばれている『万葉集』からイメージを探ってみました。
紫の花は、次の歌からイメージしました。

春の野にすみれ採(つ)みにと来(こ)しわれそ 野をなつかしみ一夜寝にける(山部赤人:やまべのあかひと)

すみれの咲く野の懐かしさを詠んだ歌で、真っ直ぐに花への想いが伝わってきます。

白と緋の色のすみれには、坪菫(つぼすみれ)を次の歌からイメージしました。

山吹の咲きたる野辺のつぼすみれ この春の雨に盛りなりけり(高田女王:たかたのおおきみ)

野辺にひっそりと咲くつぼすみれの可憐な美しさを詠んだものです。
日本の野に咲くすみれの中でも花は小さく、白地に赤紫の筋がくっきりとしていて可憐です。

すみれの花に寄せる想いは、古代から変わることなく受け継がれてきました。
以前の記事で『源氏物語』と鏡花が記憶している菫雛の関わりを書きました。
(「雛がたり」と花雛 https://washicraft.com/archives/7087 )
紫式部は『源氏物語』で、桜や紅葉、秋草など誰もが共感する植物に限らず、素朴な野にある植物にも光をあてて物語を紡いでいきました。
古代の人々が自然を愛し、植物と関わることで心豊かであったように、『源氏物語』を通じで自然を取り入れて、さまざまな植物に目を向けて関わることで心豊かになることを伝えたかったように思います。
山部赤人の歌は、『源氏物語』にも引かれています。

鏡花のイメージしたものは、懐かしい記憶に古代からすみれの花に托してきた人々の想いが重ねられ、凝縮されていると感じました。
春の息吹を伝える柔らかな緑と土をイメージした和紙を衣裳に選び、春の野に咲く情景を伝えたいと思いました。
作品の高さは、女雛が5cmほどです。

”Flower doll”

2015 1/28~2/3
『雅な雛のつどい展』

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