「雛がたり」と花雛

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雛(ひな)-女夫雛(めおとびな)は言うもさらなり。桜雛(さくらびな)、柳雛(やなぎびな)、花菜の雛(はななのひな)、桃の花雛(もものはなびな)、白と緋(ひ)と、紫(ゆかり)の色の菫雛(すみれびな)。鄙(ひな)には、つくし、鼓草(たんぽぽ)の雛。

泉鏡花の短編『雛がたり』の書き出しです。
金沢で幼少期を過ごした鏡花が6歳、7歳の頃に記憶した雛の節句の思い出を辿っていくなかで母が大切に持っていた雛の幻想が語られていきます。
雪が消え、一斉に春の花で彩られる季節の雛の節句が金沢の街の情景とともに幻想的に美しく表現されていて、待ちわびた春の歓びが伝わってきます。
『雛がたり』で数々の花雛が挙げらているところは、鏡花が春を感じる花を象徴しているように思えました。春の訪れを形にした花雛が盛んであったことも想像できます。
どのような形のものであったか、興味深いです。
「雅な雛のつどい展」では、『雛がたり』で感じたものからイメージを広げた花を雛に見立てたものをいくつかご紹介したいと思っております。

江戸時代、『源氏物語』への憧れを華やかな内裏雛や雛道具に込めたように、花雛のなかにも素朴で簡素な姿をとどめながら内には源氏物語への憧れを感じるところがあります。

『雛がたり』では菫雛の花色の紫を”ゆかり”と読ませるところに”紫のゆかり”、源氏物語、紫の上が連想されます。”紫のゆかり”とは、『源氏物語』の異称として伝承されてきたものです。『源氏物語』への憧れとともに花雛の雅な姿が想い起されました。
源氏物語の第7帖「紅葉賀」で、幼い紫の上が人形や道具類、小さな御殿などを部屋中に広げて夢中になって遊んでいる場面が思い出されます。物語では、春を象徴する紫の上。菫の花には紫の上の人柄も偲ばれます。

画像の作品は、「菫雛」(すみれびな)です。
春を告げる花のひとつとして古来より親しまれてきた可憐な花。
紫(ゆかり)の色の菫(すみれ)を男雛、淡いピンクの入る柔らかな印象の叡山菫(えいざんすみれ)を女雛に見立てました。
清浄感のある白い楮の和紙を衣裳に簡潔な形で表し、花色と花の持っている風情を引き立てたいと思いました。
作品の高さは10~12cmほどです。
”Flower doll”

2015 1/28~2/3
『雅な雛のつどい展』

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