常緑の葉に永遠を象徴するものとして、想いを託されてきた橘。
初夏、青々と繁った葉の中に白い可憐な花が点在するように咲く橘は、夏の景物として親しまれてきました。
白い小さな花は目立つことなく、木々の影から漂う香によって存在に気づくものとして和歌に詠まれてきました。橘の花の香には、懐かしさ、心安らぐものを連想させる力があります。
また、橘というと『源氏物語』で夏の季節を象徴する女性として、六条院の夏の町に住む「花散里(はなちるさと)」が想い起されます。おおらかで、誠実な人柄を橘の花のイメージにたとえ、「花散里」という名に込めたと思われます。
「花散里」については、次の歌が引かれているとされています。
橘の花散る里のほととぎす 片恋しつつ鳴く日しそ多き (万葉集:大伴旅人)
大伴旅人が、亡妻を追慕して詠んだ歌です。橘の永続性と懐古の想い、現実の世の儚さが込められています。
『源氏物語』での橘の「花散る里」という表現からは、花が散ってしまっても樹の姿は年中変わることなく緑の葉を繁らせ、また翌年にはさりげなく香しい花を咲かせて心和ませてくれることを予感させてくれます。「花散里」の登場する場面では、誠実で変わることのない人柄の温かさが伝わってきます。橘の花に「花散里」のイメージを重ねてみました。
“Hanachirusato”