紫陽花詩

『白氏文集』(巻第二十)「紫陽花詩」 白居易

何年植向仙壇上   いずれの年にか植えて仙壇の上(ほとり)に向う
早晩移栽到梵家   早晩移し栽して梵家に到る
雖在人閒人不識   人間(じんかん)に在(あ)りといえども人識しらず
與君名作紫陽花   君が與(ため)名づけて紫陽花(しようか)と作(な)さむ

『白氏文集』で、「紫陽花詩」と題して唐時代、白居易(はくきょい:白楽天)によって詠まれたものです。

何時の頃から仙人が住むという仙境の辺りに植えられたものか。寺に移植されて人間界にあるというのに、その名を誰も知らない。この花を紫陽花と名付けよう、と詠んだものです。

この詩が詠まれた背景について、

招賢寺に山花一樹有り、名を知る人無し。色紫にして気香しく、芳麗にして愛すべく、頗る仙物に類す。因って紫陽花を以てこれを名づく。

と記しています。白居易が訪れた招賢寺で咲いた一本の木は、その名を誰も知りません。花は紫で香りがよく、仙境にあるもののようです。そこで花の名を付けたとしています。高貴な色として紫という花色からは、神仙な世界をイメージさせます。天上界から地上に降りてきたかのような花の佇まいに心動かされ、詩を詠じた感動が伝わってきます。

『白氏文集』での紫陽花は、日本固有の紫陽花ではなく未詳です。平安時代の中期に源順(みなもとのしたごう)が編纂した辞典、『倭名類聚抄』(わみょうるいじゅしょう):巻第二十草木部のなかで『白氏文集』の「紫陽花詩」を出典として「紫陽花」の名があてられたことから表記が定まったとされています。

日本の山紫陽花は、芳しい香りはないものの、山の空気をまとったかのように楚々として人知れず咲き、雅趣があります。原典の紫陽花と日本の山紫陽花を重ね、青紫の清らかなイメージを想い、書に表しました。

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