日のかげは 竹より西に へだたりて 夕風すずし 庭の草むら(風雅和歌集:祝子内親王)
Hi no kage ha take yori nishi ni hedatari te yuukaze suzushi niha no kusa mura
(Fuugawakashū:Noriko naishinnou)
夏の夕暮れ。庭には心地よい涼風か吹き抜ける、安らかな時を詠まれた一首。一首を詠んだ花園天皇の皇女、祝子内親王は南北朝時代に活躍した京極派を代表する歌人の一人です。
京極派は、藤原定家の嫡子、為家の3人の子が二条・冷泉・京極の三家に分かれたうち、京極家を興した為兼により、歌壇の中心となった二条家の詞や詞のつづけがらを重んじ、題詠による歌を中心とした二条派に対し、自然と人生を区別し、実感に即して物事を多角的に捉えた、これまでの歌とは異なる歌境を提唱しました。
第17番目の勅撰和歌集『風雅和歌集』の夏部では、”涼しさ”を基調とした歌が好まれています。「納涼」という歌題は、『詞花和歌集』、それに続く『千載和歌集』『新古今和歌集』をはじめ、それ以降も夏歌の歌題として定着しているものの、撰集されている歌数は、数首みられる程度です。それに対し、京極派の勅撰和歌集では、『玉葉和歌集』19首・『風雅和歌集』12首と他集と比べ、夏歌に占める歌数が突出しており、京極派の歌人が好んだ題材であることが窺えます。
「納涼」は、木陰・水・月・風・川・草・雲・蜩などの自然によって体感する”涼しさ”を詠む題材です。夏の季節を五感で感じる感覚的な題材である「納涼」は、京極派独特の自然を動的に捉え、自然観照の中に自己の内面を投影できる歌題といえます。また、祝子内親王の一首は、「納涼」をテーマとしたなかでも、夏の夕景を詠んだ一群に排列されています。夏の情調として晩夏の夕暮れは、風によって秋の気配をそれとなく伝えます。
また一首は、”竹” が詠み込まているところにも、閑寂な風趣を愛する京極派の特色が表れています。夏の景として、庭の添景である青々と繁る ”竹” を詠み込むことで、清々しい緑の枝葉は西日を遮り、さらさらと葉音を奏で、風にそよぐ葉の醸し出す風情により清閑さが高まり、夕風の心地よさを引き立てます。さらに庭の草葉は、たおやかに風に靡き、閑寂な夏の夕景を浮かび上がらせます。
鋭敏に五感を研ぎ澄ませ、実景に基づき暁夏の夕暮れを清新な趣で詠まれた一首を書で表しました。
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