水の白波

mizunosiranami-

降りつみし高嶺(たかね)のみ雪とけにけり 清滝川の水の白波(新古今和歌集:西行)
Furi tsumi shi takane no miyuki tokeni keri kiyotaki gawa no mizu no shiranami
(Shinkokin Wakashū:Saigyō)

早春、春の勢いを回復した自然を力強く詠んだ一首。
西行は、藤原俊成(ふじわらのとしなり)とほぼ同時代の歌人です。新古今和歌集では94首撰集されており、歌数では第一位となっていますが、新古今時代の姿美しく巧みに詠む歌風とは異なり、心を如何に詠むかということに重きを置きました。藤原定家(ふじわらのさだいえ)のいうところの感情を率直に表さず、妖艶を有心とした歌風より、俊成のいうところの余情に近く、生き生きとした生の感動を歌に詠みました。

冬の間に降り積もった峰の雪解水が流れ込んだ清滝川。水かさが増した清滝川からは、水音が爽やかに心地よく響いてきます。清滝川は、京都の北山から栂ノ尾(とがのお)・槇ノ尾(まきのお)、高雄の谷間に沿って流れ、桂川に注ぎます。清滝川の流域は、山と水の渓谷による風光明媚な景観が広がっています。静寂に包まれた冬が終わりを告げ、自然の造り出した渓谷を白波を立て流れる勢いある水の姿と音は、生命の鼓動を感じます。春の勢いが”水の白波”と結句を表現したところに春の到来の喜び、感動の余韻があります。きっぱりとした清々しさを感じる西行の歌を書で表しました。

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