梢より落ちくる花ものどかにて 霞ぞおもき入相の声(風雅和歌集:花園院)
Kozue yori ochi kuru hana mo nodoka nite kasumi zo omoki iriahi no koe
(Fuugawakashū:Hanazono no in)
霞の立つ春の夕暮れの情趣を梢から落ちてくる花と日暮れを告げる入相の鐘の音によって詠まれた一首。
『風雅和歌集』の監修をされた花園院の御歌です。花園院は、実景に基づいた純粋な自然観照歌を詠んだ京極派を代表する歌人です。
『風雅和歌集』は、室町時代の初め、南北朝の対立があった時代を背景に編纂された勅撰和歌集です。『古今和歌集』の時代では自然を理知的に表現し、『新古今和歌集』の時代では自然を象徴的に表しました。『風雅和歌集』が編纂された乱世の時代、無常を感じることが強く、禅の思想が浸透した時代でもあり、現実を直視して自然を捉えて表現しました。
花園院の一首は、春の薄暮を視覚だけでは捉えることのできないしっとりとした空気感を、鐘の音が霞に包まれて籠もったように聴こえる聴覚で表現し、水墨画のようなモノトーンの景色を想起させます。モノトーンの景色のなかで、梢から落ちる花は時間が止まったかのようにゆったりとしてみえます。心穏やかな境地を感じる一首を短冊の書と和紙の桜で表現しました。
”Sunset of spring”