天照る月

花散りし 庭の木の葉も 茂りあひて 天照る月の 影ぞまれなる (新古今和歌集:曾禰好忠)
Hana chiri shi niha no konoha mo sigeri ahite amateru tsuki no kage zo mare naru
(Shinkokini Wakashū:Sone no Yoshitada)

新緑の季節の月を詠んだ一首。桜の花が散った後、枝一面に新葉が広がり、天地を照らす月の光は僅かにしか差し込まない初夏の樹木の勢いが伝わってきます。

『新古今和歌集』夏歌に撰集された一首を詠んだ曾禰好忠(そね の よしただ)は、平安中期の歌人として既成概念にとらわれず、万葉の詞を用いたり、清新な感覚と着想で歌を詠みました。

好忠の一首に詠まれた「天照る月」という詞は、以下の歌に示すように『万葉集』にみられる詞です。

久方の 天照る月の 隠りなれば 何になそへて 妹を偲はむ( 巻11:作者未詳 )
久方の 天照る月は 神代にか 出てかへるらむ 年は経につつ ( 巻7:作者未詳 )

『新古今和歌集』では、和歌の伝統に新たな風を興そうとして『万葉集』を拠り所しているように、好忠の一首は万葉の詞を取り込みつつ、新味のある視点で夏の月を詠んだところに着目され、撰集されたと思われます。

万葉の詞の荘厳な響き、力強さによって樹木の生命力を一層引き立てる一首を書で表しました。

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