よられつる 野もせの草の かげろひて 涼しくくもる 夕立の空(新古今和歌集:西行)
Yorare tsuru nomo se no kusa no kagerohi te suzusiku kumoru yufudachi no sora (Shinkokin Wakashū:Saigyō)
夕立がやって来る気配を風でもつれ合ったの野原一面の草によって捉えた一首。『新古今和歌集』の夏部の後半「夕立」を歌題として詠まれた一群に排列されています。
『古今和歌集』より『新古今和歌集』に至る勅撰和歌集の中で「夕立」を題として6首を夏部で排列されたところに新古今以前の勅撰和歌集には見られない新味が表れています。
『新古今和歌集』での「夕立」一群の流れは、西行の夕立の気配を詠んだ一首に始まります。それに続き、藤原清輔(ふじはら の きよすけ)西園寺公経(さいおんじ きんつね)源俊頼(みなもと の としより)源頼政(みなもと の よりまさ)、最後に式子内親王(しょくし ないしんのう)の夕立が過ぎ去った後の静けさをひぐらしの声に託して詠まれた一首の順に排列されいます。式子内親王の一首は、その後に続く「蝉」を歌題とした流れに自然とつながっていきます。
「夕立」6首は上記に示した西行を始めとして平安末期から鎌倉初期の歌人で構成されています。その背景として、鎌倉初期に催された『六百番歌合』、それに続く『新古今和歌集』の編纂の命を下された後鳥羽院(ごとばのいん)によって開催された『千五百番歌合』の歌題のひとつとして「夕立」がみられることからも、新古今時代の代表歌人によって探究された歌題であったことが窺えます。
『古今和歌集』以来、夏部を代表する伝統的な夏の風物「納涼」に続く歌題として、夏の自然現象を捉えた「夕立」に着目されたことは、情趣的な平安朝の美意識から中世へと移り行く時代の変化が表れていると思われます。
なかでも西行の一首は、夕立の雨雲が近づき、先立って激しく吹く風で涼しくなり、辺りが暗くなった様を鋭く動的に捉えています。夏の陽射しを受けて青々と茂る逞しい生命力の夏草が一転して雲に覆われ、強風によってもつれ合う急激な天象の変化を詠んだ一首には偉大な自然の力、荘厳さを思わせます。
夏の自然現象を大きなスケールで詠まれた一首を書で表しました。
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