あやめ草

ayamegusa-1

うちしめり あやめぞかをる 時鳥(ほととぎす) 鳴くや五月(さつき)の 雨の夕ぐれ
(新古今和歌集:藤原良経)
Uchi shimeri ayame zo kaworu hototogisu nakuya satsuki no ame no yufugure
(Shinkokin Wakashū:Fujiwara no Yoshitsune)

五月の節供の頃、軒端に菖蒲が飾られている雨の夕暮れの景色を詠んだもの。『新古今和歌集』の巻頭に撰ばれた一首を詠んだ、藤原良経(ふじわらのよしつね)による歌です。旧暦での五月、端午の節供の頃は五月雨の季節。節供には、軒に菖蒲の葉と共に蓬をさして邪気を祓う、軒菖蒲が飾られています。

この歌は、「ほととぎす なくやさ月の あやめぐさ 菖蒲も知らぬ 恋もするかな」(古今和歌集:よみ人しらず)を本歌としています。

ほととぎすは、夏の景物として古今和歌集以来夏部の伝統的な歌題とされてきました。あやめ草や橘の咲く頃に山から人里にやって来て、また花の終わる頃に山に帰っていくところから、その声を聞くのを待ち望み、懐かしさや恋しい想いが託されてきました。端午の節供の頃、ほととぎすは人里近くにおり、その美しい声を近くでよく聞くことができました。
良経は本歌を踏まえ、ほととぎすの声を季節の草の香と共に味わうことで、より清澄なものへと高めています。ほととぎすの美しい声に聞き入る良経の自然に対する真摯さ、心の持ち方がよく現われています。

夕暮れ時、五月雨に濡れた葉菖蒲はしっとりとしてたおやかで香気を感じます。部屋の中は仄かな菖蒲の香に包まれており、清々しさが心に残ります。気品と余情を感じる一首を書で表しました。

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