おくと見る ほどぞはかなき ともすれば 風にみだるヽ 萩のうは露(源氏物語:紫の上)
Oku to miru hodo zo hakanaki tomo sureba kaze ni midaruru hagi no uha tuyu
(genjimonogatari:murasaki no ue)
『源氏物語』第40帖「御法(みのり)」で、秋の夕暮に病で衰えた紫の上が、源氏の見舞いの折に和歌を詠みかわした場面で詠まれた一首。
国宝「源氏物語絵巻」では、源氏が紫の上を見舞う場面で風の吹きすさぶ庭に植えられた秋草を眺めながら和歌を詠みかわした場面が描かれています。萩・桔梗・薄・女郎花(おみなえし)・藤袴(ふじばかま)などが野辺に咲いているかのように、庭に取り混ぜられて植えられており、雅な秋の野の美しさが想い起されます。
絵巻では、可憐な秋草が風にしなう描写によって紫の上を失うことを暗示させているとともに、最愛の紫の上を失う源氏の心の内、紫の上の想い、紫の上に付き添う明石中宮の想いを伝えています。秋草は、人事を象徴的に表すものとして文学と関わってきました。
優美で彩り豊かな秋草。秋の七草に数えられている草花は、色や形、花の大きさの変化に富んでいます。秋草は、取り混ぜられることで互いに引き立て合います。
秋草のたおやかさが強調される秋風。秋草それぞれの描く線は、秋風によって乱れることで緊張感を伝えます。脆く、儚いものの持つ美しさを伝える露。露の美しさは、玉にたとえられます。露は、風によって跡形もなく消えゆくものです。
秋草の中でも露を宿した姿が優美な萩に寄せて詠まれた紫の上の最期の一首を書と描画によって表しました。