
端午の節句に向けた趣向の一作。
菖蒲の節句とも呼ばれる端午の節句に邪気を払い、息災を託す植物とされてきたサトイモ科の菖蒲(しょうぶ)。サトイモ科の菖蒲と同じ漢字を「あやめ」とも読み、水辺に生えて剣のような葉の形状から端午の節句に相応しい季節の花として「あやめ」は親しまれてきました。
花びらに入る文(あや)の目模様に特徴があります。日本各地にみられる原種の紫の花を鉢を含めて高さを11cmほどに縮小して表しました。
「和紙のつどい・雛展」
2017年2月2日(木)~2月8日(水)
”Iris”

端午の節句に向けた趣向の一作。
菖蒲の節句とも呼ばれる端午の節句に邪気を払い、息災を託す植物とされてきたサトイモ科の菖蒲(しょうぶ)。サトイモ科の菖蒲と同じ漢字を「あやめ」とも読み、水辺に生えて剣のような葉の形状から端午の節句に相応しい季節の花として「あやめ」は親しまれてきました。
花びらに入る文(あや)の目模様に特徴があります。日本各地にみられる原種の紫の花を鉢を含めて高さを11cmほどに縮小して表しました。
”Iris”

早春、銀色の絹毛に覆われた花穂が愛らしいネコヤナギ。
光沢感のある花穂が陽の光を受けて輝く様は、温かく春の息吹を感じます。
性質と厚みの異なる和紙を取り合わせて花穂の色合いと感触を0.5~1cmほどの大きさに縮小して表し、陶器の鉢にあしらいました。作品の高さは、鉢を含めて11cmほどです。
”Salix gracilistyla”

日本の野に咲くスミレのなかでも小さく、白地に赤紫の筋がくっきりとしていて可憐なツボスミレ。
山吹の咲きたる野辺のつぼすみれ この春の雨に盛りなりけり 万葉集: 高田女王(たかたのおおきみ)
の歌にあるように、野辺にひっそりと咲くつぼすみれの可憐な美しさが古来より愛でられてきました。
花径が1cm弱ほどの小さな花を実物と同じほどの大きさで、白と赤紫の和紙の取り合わせによって表しました。ハート形の葉を板締和紙の柔らかな質感と色合いによって表情を出し、1.5cm角の陶器の鉢に合わせました。高さは、鉢を含めて5.5cmほどです。
”Viola verecunda”

春の訪れを告げる可憐なスミレ。
万葉時代から親しまれている身近にみられる濃い紫の花色のスミレを1cm角ほどの大きさに表し、陶器の鉢にあしらいました。高さは、鉢を含めて6cmほどです。
“Viola”

早春、一面に黄色の絨毯を敷き詰めたように咲くナノハナ。
アブラナ属を総称するナノハナのなかで江戸時代に種から油を採取するため、日本各地に栽培が広まったアブラナは、春の風物詩として親しまれてきました。アブラナの伝来した時期には諸説あるようですが、奈良時代までには伝わっており、葉物野菜とされてきました。
アブラナの種から油が採取される技術が現れ、灯明の用途として菜種油が普及したのは江戸時代のことです。それ以前は荏胡麻(えごま)油が灯明の用途として古来より使われていましたが、庶民には手の届かないものでした。アブラナの栽培の拡大と搾油技術の普及によって庶民にも広まりましたが、それでも高価なものであったようで、魚や木の実から採取された油も使われていました。
アブラナを”菜の花”という名称で表現したものには、与謝蕪村(よさぶそん)の「菜の花や 月は東に 日は西に」の句が想い起されます。蕪村は享保元年(1716)~天明3年(1784)の江戸中期に活躍し、後世に影響を与えました。
蕪村が生まれた享保年間は、雛人形の大きさが幕府によって制限されるほど絢爛豪華な雛人形や雛道具を飾ることが流行した時代でもありました。華やかな上巳の節句が祝われた時代、鮮やかなアブラナの咲く風景は、上巳の節句の季節感を印象付けるものとなったと思われます。
アブラナを描いたものは、江戸後期、酒井抱一(さかい ほういつ)や鈴木其一(すずき きいつ)に代表される江戸琳派で描かれた”菜の花”が想い起されます。抱一とその弟子、其一は俳諧に親しみ、絵画の中に俳諧的な表現を取り入れました。季節を象徴するものとして”菜の花”を取り上げた背景には俳諧的な趣向を感じます。抱一や其一の描いた一株の描写は、雲雀(ひばり)が戯れる背景に咲く素朴な愛らしさ、春雨に打たれた姿に込められた優しさ、野辺に漂う長閑さや暖かな空気感など人の心を和やかに包み込むものを持つ花に託し、季節の一瞬を詩情豊かに表現しています。
作品は、蕪村の句や江戸琳派の表現されてきた葉の根元が茎を抱え込み、横から斜め上向きに葉が開いた在来種のアブラナの特徴を和紙の柔らかな風合いで高さを台を含め17cmほどに縮小して表したものです。
“Chinese colza”

桜の花びらのような切れ込みのある姿が優美な日本桜草。外来の園芸種と区別してニホンサクラソウと呼ばれています。楚々とした風情は、春の野を想わせます。江戸琳派の絵画の中でも、春の情景には桜草は菫や土筆、蓮華草などと共によく描かれてきました。
縮緬状の柔らかな葉と、軽やかな花が春草らしい日本桜草を花径を1cmほど、高さを台を含めて6cmほどに縮小して表しました。
”Primrose”

春の長閑さを伝えるレンゲソウ。繊細な構造の花と躍動感のある小さな葉は、明るくほのぼのとした懐かしさを感じさせてくれます。花径を2cm程に縮小し、数種類の和紙の取り合わせによって春の野辺の情景を表しました。作品の高さは、台を含めて7cmです。
“Chinese milk vetch”

濃紅地に白斑が入った華やかな八重咲きの岩根絞(いわねしぼり)椿。
岩に根付き優美な花を末永く咲かせ続けて欲しいと託された名に現れているとおり、紅白の対比の鮮やかな花は常緑の葉のなかに浮かび上がり、凛とした中に春の華やぎと豊かさを感じます。
春の到来を告げる、岩根絞椿の持つ風情ある花びらを花径5cmほどに縮小して和紙で表し、陶器にあしらいました。
Camellia japonica “Iwane Shibori”

健康と長寿を願う菊の節句、9月9日の「重陽」の節句に向けた趣向のものです。重陽の節句の前夜、菊に赤、白、黄の三色に色分けされた綿を着せ、翌日に露と菊の香が移った綿で体を清めた行事に因み、赤、白、黄の小菊を寄せました。
三色の小菊を和紙の色合いと紙素材の切り口による線を生かし、花の直径を1~2cmほど、高さを12cmほどに縮小して表しました。
” Chrysanthemum Festival ”

2017年の「和紙のつどい・雛展」では雛の作品をはじめとして、季節の節目を祝う五節句をめぐる植物をテーマに展開いたします。
季節の節目を祝うを五節句では、上巳の節句の華やぎ、端午の節句の凛々しさなど、それぞれの節句の季節を象徴してきた植物に心を託し、願いを込めてきました。季節の移ろいを伝える植物は、暮らしに彩りと潤いを与えてくれます。
雛を飾り始める季節に ~五節句をめぐる花遊び~ と題し、リアルな大きさからミニチュアまで和紙素材の持ち味を生かし、小さな空間で季節を愉しめる作品を御覧に入れたいと思っております。
画像の作品は、1月7日の人日の節句に向けたしつらいとして、新春の寿ぎを卜伴(ぼくはん)椿と花包みに込めたものです。
日本の在来植物として松や竹とともに不老長寿や永続性など瑞祥を象徴するものとして尊ばれてきた椿。花文化が栄えた江戸時代、新発見や品種改良によって多彩な咲き方、花色の椿が現れました。そのひとつに江戸初期には存在し、今に伝わる春咲きの卜伴(ぼくはん)椿があります。関西では、月光(がっこう)椿と呼ばれています。
濃紅色の花色と小さな花びらのように変化した雄蕊(ゆうずい)の対比が鮮やかな唐子咲きの卜伴椿を花径4.5㎝ほどに縮小して表しました。椿を飾った花包みは、吉祥の図柄の友禅和紙を組み合わせ、立体的に折り上げました。
Camellia Japonica ”Bokuhan”