
立春。寒さの中で凛として咲き始める梅。清楚な中にも生命感の強さを感じさせてくれます。
手漉き和紙の柔らかな質感と白色によって白梅の花びらの表情を出しました。
”Ume”

「雅な雛のつどい展」(日本橋三越本店 ギャラリーアミューズ)が無事終了いたしました。
菜の花・レンゲソウ・タンポポ・桜などを形代とした花雛をはじめ、~春草・夏草・秋草に寄せて~と題した作品群をご覧いただきました。古来より、日本では四季の草花に心を託してきました。春草の生命感ある素朴な姿、夏草の勢いと逞しさ、秋の情趣を伝える秋草の寂寥感と四季それぞれの特性が草花に現われていると思います。
画像は、出展しました花雛よりレンゲソウとタンポポを坐雛(すわりびな)で表したものです。
寒さの中、ご来場いただきました皆様には心より御礼申し上げます。温かなコメントをいただき、大変励みになりました。これからも、和紙作品から季節を愉しんでいただけましたら嬉しく思います。
“Flower Hina doll”

日本の山野に古から自生してきた春を代表する山桜。
白い花色の一重の花と花と同時に開く若葉を和紙の色合いと風合いで表しました。山桜をあしらった貝は、和紙で象った蛤を取り合わせました。
雅な雛のつどい展に初日よりご来場いただきました皆様に御礼申し上げます。温かなコメントをお寄せいただき、大変励みになりました。今後ともよろしくお願い申し上げます。

本阿弥光悦・俵屋宗達に始まる「琳派」の流れの中で酒井抱一(さかいほういつ)、その弟子の鈴木其一(すずききいつ)をはじめとした「江戸琳派」では上巳の節句に向けた紙雛(かみひいな)や正月飾り(蓬莱飾り)など年中行事を題材にした図を残しています。上巳の節句に向けた花と紙を形代とした愛らしい「花雛図」も残されています。
花雛は、紙雛(かみひいな)の形式で蓮華(れんげ)や菜の花などを雛に見立てたもので、素朴な野の花を愛でて季節を愉しみ節句を祝う心が詩情豊かに表されており、簡素な中にも雅な風情を感じます。
「花雛図」というと鈴木其一(すずききいつ)の描いたものが想い起されます。鈴木其一(すずききいつ)は師の酒井抱一から、絵画のほか茶の湯や俳諧も学びました。田園風景を思い起こす蓮華と菜の花を雛に見立てる背景には千利休の”侘び”を感じます。
また、岡倉天心は『茶の本』の第7章「茶人たち」のなかで、「琳派」の表現について次のように述べています。
世に言う光琳派全体が、「茶道」の表現なのである。この派の太い描線には、自然そのものの活力が感じられる。
その場限りの美しさ、それを実現するための行為を利休の”侘び”と捉えると、無垢な野の花をそのままでなく、優美な和紙に包み簡潔な形式の雛に見立てるという行為には、”侘び”の思想が背景にあると感じます。
蓮華と菜の花を和紙で表したものを紙雛(かみひいな)に見立てました。
友禅紙を衣裳に選びの高さを11cmほどに抑えて、安定感を出しました。
“Flower Hina doll”

春の野の風情を伝えるスミレ。スミレの大きのさそのままの小さな雛に見立てたものです。
軽くて柔らかな質感の和紙の風合いとスミレの花色を生かしました。

夏の山野草。白鷺が空に舞うかのような造形が優美です。
さっぱりとした花姿は、夏の季に涼感を与えてくれます。和紙の柔らかさと繊維を生かし表しました。
花の大きさを2cm角ほど、高さを鉢を含めて10cmほどの大きさに縮小し、幅2.5cmの鉢にあしらいました。
” White Egret Flower”

太陽に向けて花を咲かせる向日葵。夏の季の花らしい真っ直ぐに立つ力強さと鮮やかな花色で季節を彩ります。
数種類の和紙の性質を使い分け、存在感のある花の勢いを伝えたいと思いました。花の直径を4cmほど、高さを12cmほどに縮小して表しました。
“Sunflower”

春を告げる山野草2種を鉢にあしらったものです。
画像の左手にあるのは、春の妖精と呼ばれる花のひとつ、福寿草です。地際からふっくらとした芽を出した姿は愛らしく、一際鮮やかな黄色の花が印象的です。花の直径を2cmほどの大きさで表しました。鉢は直径2cmのものを合わせています。
画像の右手にあるのは、古来から春の野の花として親しまれてきたスミレです。花の直径は1cmほどの大きさで表しました。鉢は、1.5cm角のものを合わせています。和紙の繊維と鮮明な染色を生かし、それぞれの花の趣を表しました。
”Far East Amur adonis・violet”

春を告げる山野草2種を鉢にあしらったものです。
画像の左手にあるのは、春の妖精と呼ばれる花のひとつ、東一華(アズマイチゲ)です。清楚で繊細な白い花が語りかけてくるようです。花の直径を2cmほどの大きさに縮小して表しました。鉢は1.5cm角のものを合わせました。
画像の右手にあるのは、春に咲く澄んだ青紫が清々しい小さな山野草、春竜胆(ハルリンドウ)です。花の直径は1cmほどで、実物と同じくらいの大きさで表しています。鉢の大きさは直径2cmのものを合わせました。それぞれの花の特性に合った色と強度の和紙を選び表しました。
”Anemone raddeana・Gentiana thunbergii”

江戸の花雛の面影を泉鏡花の『雛がたり』を拠り所に『見渡せば柳桜をこぎまぜて 都ぞ春の錦なりける』(古今和歌集:素性法師)の和歌から着想したものを色紙に表しものです。
『雛がたり』は、鏡花が6歳、7歳の頃に記憶した雛の節句の思い出を辿っていくなかで、母の持っていた雛の幻想が春の情景のなかで綴られています。『雛がたり』では、素性法師の和歌以来の美意識が随所に現われています。例えば、「白酒を入れたは、ぎやまんに、柳さくらの透模様(すきもよう)」とあるように、柳桜と雛の節句の季節感を結びつけています。とくに『雛がたり』の終盤、橋詰めにあるしだれ柳の浅翠の枝によって河原に敷かれた緋毛氈に雛壇が飾られた幻想をみるところは印象的です。
しだれ柳は奈良時代に中国より柳に託されてきた文化と共に日本に渡来し、都の朱雀大路を中心とした街路樹をはじめ、川の護岸などに広く植えられ、春を象徴するものとして捉えられてきました。柳の枝には、強い生命力、繁殖力があり、幸福と健康、繁栄が託されてきました。11世紀に中国の宋時代の詩人、蘇軾(そしょく)は春の景色を「柳は緑、花は紅」と詠じました。花は色とりどりに咲き誇り、自然のあるがままに生きています。「柳緑花紅(りゅうりょくかこう)」は、あるがままの春景色の素晴らしさを例える言葉として用いられてきました。
また、しだれ柳の浅翠のしなやかな枝は機織や染物を司る春の女神とされた佐保姫の染めた糸に見立てられ、春風と取り合わせて数多くの和歌が詠まれました。『雛がたり』の終盤に柔らかい風によってめくれた緋毛氈がしだれ柳にからむ光景は、鏡花が風に春の到来を告げる佐保姫を感じ取り、雛の幻想が浮かび上がってみえたと思わせます。鏡花は、古からしだれ柳に込めらてきたものを背景に、浅翠という色名に込めています。
春の柔らかな風と瑞々しい浅翠のしだれ柳、そして山桜を柔らかな質感の和紙で表しました。色紙の正方形の制約と短冊の幅の制約を2つの素材を取り合わせ、幅と長さを出しました。
” Willow & Cherry Blossoms ”