投稿者「ymatsu」のアーカイブ

源氏物語より「野分」

『源氏物語』第28帖「野分(のわき)」のテーマを秋草によってイメージしたものです。野分とは、野を分けるほどの荒々しい風雨に見舞われる、台風のことをいいます。六条院の秋の町に暮らす、秋好(あきこのむ)中宮の庭は秋の草花が咲き乱れ、人々の目を楽しませていました。そんなある日のこと、例年になく激しい野分が襲来し、源氏の邸、六条院も荒らされます。

野分の見舞いに父源氏の邸、六条院を夕霧は訪れます。源氏と紫の上の暮らす春の町で、野分の激しい風により、偶然にも紫の上を垣間見ます。野分の荒ぶる激しさが、夕霧の心象風景として春の町の庭の荒れ果てた光景に表現されています。紫の上を象徴する優美な春の町の庭は、風で築山の木々が吹き倒れ、枝も何本も折れ、草むらはいうまでもなく、庭は雑然として変わり果てています。

野分が静まり、源氏の使者として夕霧は秋好中宮を見舞います。秋の町の御殿は落ち着きを取り戻し、童女らが庭に出て虫籠に露を入れている光景を遠目に見ます。その”あはれ”を誘う、優艶な光景に破綻することのない、冷静な夕霧の心が映し出されています。秋の町は、しみじみとした秋の情趣を漂わせています。

風に靡き、しなだれる風情に秋の情趣を感じる秋草より、薄・女郎花(おみなえし)・白萩・藤袴・葛を和紙で表したものを取り合わせ、秋草文様の友禅紙を手折った花入れにあしらいました。

“Genji Monogatari no.28 Nowaki”

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松虫草

爽やかな高原の花、マツムシソウ。小花が多数集まって咲いたものが一つにまとまった、丸みのある頭花(とうか)という形状に特徴があります。薄紫の小花のひとつひとつと繊細な葉を柔らかな和紙で表し、短冊にあしらいました。

”Scabiosa japonica”

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紅葉葵

鮮明な紅色の大輪の花と青楓のような繊細な葉の風情が涼やかなモミジアオイ。
紅蜀葵(こうしょくき)とも呼ばれ、夏の一日花の儚さも漂わせます。和紙の取り合わせ
によって、繊細で艶やかな花と涼やかな葉を表しました。

”Scarlet rose mallow”

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萩に撫子

流れるような枝が優美な萩。可憐な河原撫子。草葉の描く線の流動感と繊細な花が、秋の気配を静かに伝えます。それぞれの花の特徴を柔らかな和紙の風合いと繊細な色合いで表し、竹の花籠にあしらいました。

“Autumn grasses”

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扇面「葛」

秋の七草のなかでも、野趣ある葛。赤紫の優美な花色の花穂と白い葉裏をみせながら風にそよぐ姿は風情があります。蔓の動きに野の花の強さを感じる葛を和紙の取り合わせと繊維の強さによって表し、扇子にあしらいました。

“Kudzu vine”

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貝合わせ「白萩」

秋の七草の筆頭、萩。 白い花穂が清楚な印象の白萩を薄口の和紙のしなやかさと温かみのある白と緑の和紙の色合いを生かし、動きのある枝を切り取ったように表しました。和紙で象った蛤にあしらい、秋草の風情を伝えました。

“ White bush clover ”

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紫草

紫の ひともとゆゑに 武蔵野の 草はみながら あはれとぞ見る (古今和歌集:よみ人知らず)
Murasaki no hito moto yue ni musashino no kusa ha minagara ahare tozo miru (Kokin Wakashū:Yomibito sirazu)

紫とは、紫根(しこん)と呼ばれる根に紫色の色素成分を持ち、染料とされた紫草(むらさき)をいいます。紫草は夏季に白い花を咲かせます。花は小さく目立ちませんが、古の人は高貴を象徴する” むらさき”色の染料となり、その染料の美しさから紫草に心惹かれました。

一首は、紫草が一本あるために、紫草の生えている同じ武蔵野の草すべてが、ゆかりのあるものとして懐かしく、愛おしく思うと詠んだものです。紫草への愛着を詠んだところから発展し、愛しい女性を紫草に見立て、その女性とゆかりのある人、すべてが懐かしく思われると解釈されるようになり、定着しました。

また、武蔵野は古代から中世にかけて、京の人々が憧れをもって、和歌や物語に詠まれてきました。一首は、どこまでも続く原野のイメージを持った武蔵野を舞台にした心和む優しい物語を想像させます。

葉脈の筋がはっきりとした葉の上に、控えめに清楚な純白の花を咲かせる紫草を和紙で表したものを書と取り合わせ、武蔵野の原野に咲く光景を詠んだ一首をイメージしました。

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