投稿者「ymatsu」のアーカイブ

昼顔

風趣を感じる、身近にみられる夏の野の花、昼顔。飾り気のない小さな淡い色合いの花は清涼感があり、夏を彩る花として親しまれてきました。薄口の和紙の繊維の強さを生かし、蔓の動きを出し、ガラスの器にあしらいました。

”Calystegia japonica”

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星合

あまの川 岩こす 波のたちゐつゝ秋のなぬかの けふをしぞまつ(後撰和歌集:よみ人しらず)
Amanogaha iha kosu nami no tachi i tsutsu aki no nanuka no kefu wo shi zo matsu (Gosen Wakashū:Yomibito shirazu)

七月七日を待つ想いを織女星の身となり、詠まれた一首。

年に一度、天の川を渡り、牽牛と織女が逢うという漢代の伝説が伝えられてより、数多くの歌人に詠まれてきた七夕。旧暦の七月七日の七夕は、星合(ほしあい)とも呼ばれました。中国では、川を渡るのは織姫ですが、日本の和歌では通い婚を背景として、その多くは彦星が川を渡ります。

『後撰和歌集』の一首では、立ったり座ったりという落ち着かない動作を「波のたちゐ」という言葉で表現し、じっとしていられない心境を伝えています。岩越す波の勢いにその切実さが表れ、七夕を待ち焦がる想いの深さを感じます。

七夕歌を書で表した料紙と同系色の継ぎ紙、画仙紙を取り合わせて天の川をイメージし、古歌の趣を表しました。

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七夕に寄せて

七夕に寄せて、和紙による河原撫子(かわらなでしこ)、桔梗、節黒仙翁(ふしぐろせんのう)を取り合わせたものです。

室町時代、七夕法楽(たなばたほうらく)と呼ばれる、公家や将軍家などの間で器と花を競う、華やかな花合わせが行われていました。室町期の立花の姿を伝える『仙伝抄(せんでんしょう)』の中で、「七月七日の真に仙翁花(せんのうげ)、ききやう。」とあり、七夕の花の真に立てるのは、仙翁(せんのう)と桔梗であると伝えています。撫子(なでしこ)は、平安時代の七夕には花の優劣を競い、七夕伝説に寄せて歌合(うたわせ)をする、「瞿麦合」(なでしこあわせ)が催され、可憐な草姿が愛でられました。

雅な七夕行事に所縁のある花を和紙の繊維の強さとしなやかさ、染色によって表し、竹の籠花入にあしらいました。

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蛍袋・岩菲

夏の山野草より、蛍袋(ほたるぶくろ)と岩菲(がんぴ)の特徴を和紙で表し、短冊にあしらったものです。野の風情を伝えてくれる蛍袋(ほたるぶくろ)は、釣鐘状の花が可憐です。
朱紅色の鮮やかな花色が夏らしく、すっきりとした線を持つ岩菲(がんぴ)。ナデシコ科の植物らしい、花びらの切れ込みが優美です。それぞれの花の特性に合わせて和紙を選び、和紙の持ち味によって花の個性を表しました。

” Hotarubukuro・Silene banksia ”

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玉柏

玉柏 しげりにけりな さみだれに はもりの神の しめはふるまで( 新古今和歌集:藤原基俊 )
Tamagashiha sigeri ni keri na samidare ni hamori no kami no shime hafuru made
(Shinkokin Wakashū:Fujiwara no Mototoshi)

降り続く五月雨を受け、青々とした葉を茂らせた見事な柏の木。柏に宿るという、葉守(はもり)の神がしめ縄を張っているかのようである。

一首を詠んだ、藤原基俊(ふじわらのもととし)は、平安末期の院政時代、源俊頼(みなもとのとしより)と並び、歌壇で活躍した歌人です。『古今和歌集』を重んじ、伝統的な歌風に特色があります。『新古今和歌集』の夏歌で、「田のしめ縄」を題材に田植えを詠んだ歌に続き、「五月雨」を歌題とした中に一首は排列されました。

「玉柏(たまがしは)」とは、柏の美称です。柏は、冬になっても枯葉が落葉しないことから、楢(なら)と共に葉守(はもり)の神が宿る神聖な樹木とされ、平安時代には柏の特性から、四季を通じて和歌や物語の題材として取り上げられました。

『枕草子』で清少納言は、柏について、次のように綴っています。

柏木、いとをかし。葉守(はもり)の神のいますらむも、かしこし。兵衛の督(ひょうえのかみ)、佐(すけ)、尉(ぞう)など言ふも、をかし。

柏の木は、風情があり、葉守(はもり)の神がおいでになる、畏れ多い木である。兵衛の督(ひょうえのかみ)、佐(すけ)、尉(ぞう)などの衛門府(えもんふ)の官職の雅称として柏木が用いられることは素晴らしく、興味深いと評しています。

「柏木」は、官職の雅称であることは、『源氏物語』の第36帖「柏木」の巻名からも窺えます。夕霧の親友、柏木の名は皇居を守護する衛門府(えもんふ)の長、衛門督(えもんのすけ)に就いていたことから、「柏木衛門督」と呼ばれたことに因みます。

基俊の一首は、「 ならの葉の 葉守の神の ましけるを 知らでぞ折りし 祟りなさるな 」(後撰和歌集:藤原仲平)、『源氏物語』で夕霧の親友、柏木の未亡人落葉の宮が夕霧への返歌として詠んだ、

柏木に 葉守の神は まさずとも 人ならすべき 宿の梢か ( 源氏物語「柏木」:落葉の宮 )

が本歌とされています。落葉の宮の詠んだ一首は、第36帖「柏木」の巻名の由来となっています。

基俊が詠んだ歌の詞書には、「雨中木繁といふ心」と題して詠まれたことが記されています。
基俊の一首は雨が降り続くなか、柏が梢に青葉を繁茂させた、薄暗く視界が遮られた景色を上の句で詠んでいます。下の句では、一転して柏にしめ縄が張られたかのように見立てることで、葉守(はもり)の神の宿る荘厳で深遠な景色を想像させます。

『源氏物語』のなかで紫式部が落葉の宮に詠ませたように、葉守(はもり)の神が不在であるかのように伝えつつ、しめ縄が張られていなくても葉守(はもり)の神は永遠に宿り続けると想わせる展開は、柏の存在感、生命感、神々しさを強く印象付けます。

梅雨の時季の寄せて、数々の和歌や物語を創造させてきた柏の神秘を詠んだ一首を和紙による柏の葉と書で表しました。

 

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紫露草

四季の草花を和紙の花によって、盆栽風に表したシリーズの一作。
梅雨時の花、紫露草。鮮やかな紫の花色と葉の流れが涼やかな印象です。
紫の花を2cm角ほどの大きさに縮小し、薄口の和紙の柔らかさによって表しました。

”Common Spidewort”

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