霜をまつ 籬(まがき)の菊の よひの間に 置きまよふ色は 山の端の月(新古今和歌集:宮内卿) Simo wo mastu magaki no kiku no yohi no ma ni oki mayofu iro jha yama noha no tsuki ( Shinkokinwakashū:Kunaikyou) 霜を待っている垣根の菊。宵の間に霜が置いたのかと見間違えるほど、月の光によって白く輝いて見えると詠まれた一首。一首は『新古今和歌集』秋歌下で、「雁」を詠んだ歌題に続き、「菊」を歌題とした一群に排列されています。一首を詠んだ宮内卿(くないきょう)は、式子内親王、俊成女と並び、新古今時代を代表する女性歌人の一人として知的な趣で巧緻な詞の続けがらに特徴ある歌を詠みました。
宮内卿の一首から、『古今和歌集』に撰集されている白菊の花を詠んだ次の一首が想起されます。
心あてに 折らばや折らむ 白菊の おきまどはせる 白菊の花 (古今和歌集:凡河内躬恒)
凡河内躬恒(おおしこうち の みつね)が詠んだ一首は、晩秋に初霜が降りて、白一色になった庭の白菊の美しさを詠んだものです。折るならば、あて推量で折ることになろうかと、白菊を霜と見分けがつかなくなったと機知に富む表現により、霜に打たれた白菊の美しさを讃えました。
宮内卿の一首には、次のような詞書があります。
五十首哥たてまつりし時、菊籬月と云ふ事
宮内卿は詞書にあるとおり、菊が咲く季節の情趣を詠みました。まだ、霜が置く季節ではない白菊を月の光が反映し、菊の白さを際立たせます。躬恒の一首では、露と白菊が紛れるのに対し、霜が降りる前の時節を月の光の神々しさによって表現したところに、宮内卿らしい理知的な歌風が表れています。宮内卿の一首は、季節が進んで霜が降りる頃、白菊は「紫」に花色が移ろうことを予感させます。
白菊に寄せ、季節の推移を精緻に詠まれた一首を書で表しました。
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