水(み)のおもに あやおりみだる 春雨や 山のみどりを なべて染むらん(新古今和歌集:伊勢)
Mi no omo ni aya ori midaru harusame ya yama no midori wo nabete somuran
(Shinkokin Wakashū:Ise)
池の水面を綾織るように乱す春雨。春雨が山を緑に染め上げているのであろうか、と詠まれた一首。
古今時代を代表する女流歌人、伊勢の詠んだ一首は『新古今和歌集』春歌上で「春雨」を歌題とした中に排列されています。一首は『新古今和歌集』の詞書に記された、「寛平御時后宮の哥合哥(かんぴょうのおおんとき きさいのみや の うたあわせ うた」とあるとおり、紀貫之をはじめ、古今時代を代表する歌人が集う、歌合せで詠まれたものです。
春の野山に降り注ぐ春雨が、水面に綾を織りなすように波紋を映し出し、山に降り注いだ春雨が若葉の緑を染め上げているのだろうか、と詠みました。鏡に見立てた水面に映る波紋に着目し、萌え出たばかりの瑞々しい若葉の緑を鮮やかに浮かび上がらせます。
清新な春の情感を細やかで、色彩豊かに捉えた一首を書で表しました。
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