月別アーカイブ: 2017年6月

糊空木

白い花穂(かすい)が清楚な印象のノリウツギ。アジサイの仲間のなかでも立体的に細やかな両性花をつけていくところに特徴があります。その周囲には、小さな蝶が舞うかのように装飾花を咲かせます。白色の和紙を取り合わせて花穂を表し、陶器にあしらいました。

”Hydrangea paniculata”

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梅雨時の花たち

梅雨にかかる季節に咲く植物を和紙の花で表したものです。

上から、岩絡(イワガラミ)・小紫陽花(コアジサイ)・糊空木(ノリウツギ)・七段花(シチダンカ)・八重蕺草(ドクダミ)の野趣ある5つの花を選びました。

イワガラミは、岩や樹木にからみつき、高い壁をつくるように広がり、白い花を咲かせます。装飾花を一片しかつけないところに特徴があります。
コアジサイは、ひらひらした装飾花はなく、細かい花が集まった両性花(りょうせいか)のみで構成されています。
ノリウツギは、白い花穂(かすい)が立体感ある円錐状に広がります。
シチダンカは、ガクヘンが重層的にまとまった八重咲の華やかさがあります。
ヤエドクダミは、白い花弁のようにみえる葉が変化した苞(ほう)の重なりが清楚です。

湿度の高い梅雨にかかる時季を好む花たちは、潤いを得た緑深い山野を彩ります。5つの植物を和紙の持ち味を生かし、それぞれの特徴を出しました。

”climbing-hydrangea ・Hydrangea hirta・Hydrangea paniculata・
Hydrangea serrata・Houttuynia cordata”

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未央柳

艶やかな花色と繊細な造形が優美な梅雨の時季の花、未央柳(びようやなぎ)。

中国から渡来した未央柳の名は、唐時代の詩人、白居易の『長恨歌』の一節にある未央(びおう)宮に由来します。楊貴妃の眉を「柳如眉(柳は眉の如し)」と宮殿に植えられた柳に喩えました。細長い葉としなだれた枝は、風に吹かれて微かに揺れるさまがしだれ柳のようにたおやかで、風情があります。

楮の繊維によってしべの長い花の特徴を表し、扇子にあしらいました。

”Hypericum chinense”

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青い紫陽花

立体感ある手毬形の青い紫陽花。小花が重なりあった咲き方によって陰影を生み、しっとりとした雨の季節を伝えます。青系統の和紙を取り合わせ、花色の濃淡と大小の変化によって立体感を出しました。素朴な味わいの和紙に包み、ブーケにまとめました。

”Hydrangea”

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紫陽花詩

『白氏文集』(巻第二十)「紫陽花詩」 白居易

何年植向仙壇上   いずれの年にか植えて仙壇の上(ほとり)に向う
早晩移栽到梵家   早晩移し栽して梵家に到る
雖在人閒人不識   人間(じんかん)に在(あ)りといえども人識しらず
與君名作紫陽花   君が與(ため)名づけて紫陽花(しようか)と作(な)さむ

『白氏文集』で、「紫陽花詩」と題して唐時代、白居易(はくきょい:白楽天)によって詠まれたものです。

何時の頃から仙人が住むという仙境の辺りに植えられたものか。寺に移植されて人間界にあるというのに、その名を誰も知らない。この花を紫陽花と名付けよう、と詠んだものです。

この詩が詠まれた背景について、

招賢寺に山花一樹有り、名を知る人無し。色紫にして気香しく、芳麗にして愛すべく、頗る仙物に類す。因って紫陽花を以てこれを名づく。

と記しています。白居易が訪れた招賢寺で咲いた一本の木は、その名を誰も知りません。花は紫で香りがよく、仙境にあるもののようです。そこで花の名を付けたとしています。高貴な色として紫という花色からは、神仙な世界をイメージさせます。天上界から地上に降りてきたかのような花の佇まいに心動かされ、詩を詠じた感動が伝わってきます。

『白氏文集』での紫陽花は、日本固有の紫陽花ではなく未詳です。平安時代の中期に源順(みなもとのしたごう)が編纂した辞典、『倭名類聚抄』(わみょうるいじゅしょう):巻第二十草木部のなかで『白氏文集』の「紫陽花詩」を出典として「紫陽花」の名があてられたことから表記が定まったとされています。

日本の山紫陽花は、芳しい香りはないものの、山の空気をまとったかのように楚々として人知れず咲き、雅趣があります。原典の紫陽花と日本の山紫陽花を重ね、青紫の清らかなイメージを想い、書に表しました。

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夏椿

夏の一日花、夏椿。透明感のある白い花は青葉に映え、涼しげな姿で楽しませてくれます。
細やかなしぼ(皺)のある和紙によって花の風情を表し、素朴な味わいの和紙を花器に見立て、あしらいました。

“Japanese stuartia”

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柳蔭

夏衣 たつた 川原の 柳かげ すずみにきつつ ならす ころかな(後拾遺和歌集:曾禰好忠)
Natsugoromo tatsuta kakawara no yanagi kage suzumi ni ki tsutsu narasu koro kana
(Goshūi Wakashū:Sone no Yoshitada)

夏が立つ、夏衣を裁つ(仕立てる)を龍田川と掛け、水辺を主題として柳蔭にも涼を求めた一首。夏衣を着慣らすように、龍田川の川原の柳の木蔭に涼みに通う季節となったと夏を詠んだものです。曾禰好忠(そねのよしただ)は、平安中期の歌人として既成概念にとらわれず、万葉時代の古語を用いたり、清新な感覚と着想で歌を詠みました。

夏歌での納涼詠が勅撰集に初出したのは『拾遺和歌集』のことです。
『拾遺和歌集』は、『古今和歌集』・『後撰和歌集』に次ぐ第3番目の勅撰集です。
『拾遺和歌集』の夏歌での納涼詠は終盤に排列され、その後の勅撰集にも継承されていきます。このことは、納涼詠が次の季節の秋を想わせるものとして位置づけられていたことを示しています。

好忠の一首が撰集された『後拾遺和歌集』は第4番目の勅撰集にあたります。そのなかで夏部の終盤に排列されており、その排列からも涼やかな趣向を感じます。

好忠の一首は、万葉時代より春を象徴する景物として詠まれてきた「しだれ柳」の風情を夏の納涼詠に取り込んだところが斬新です。
春の芽吹きの頃、浅緑であった柳の糸は、緑を深めて葉を茂らせ、木蔭を作っています。しなやかな柳の風情は、清々しい水辺の景と一体となって、夏の涼感を誘うものとして着目したところに清新なものを感じます。

また、好忠の一首からは平安末期の歌人、西行が柳蔭を詠んだ一首、

道の辺に清水ながるる柳かげ しばしとてこそ立ちとまりつれ (新古今和歌集:夏歌)

が想い起されます。

夏はいかにも涼しさを詠むという原点を感じる一首を柳と流水の線描と書で表しました。

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