
冬の空気に艶やかに映えるシクラメン。ふんわりと咲く暖かみのある花の風情を和紙の鮮明な色合いと柔らかな質感によって表し、陶器にあしらいました。
”Cyclamen persicum”

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冬がれの 森のくち葉の 霜のうへに おちたる月の 影のさむけさ(新古今和歌集:藤原清輔)
Fuyu gare no mori no kuchiba no shimo no uhe ni ochitaru tuki nokage no samukesa
( Shinkokinwakashū:Fujiwara no kiyosuke)
冬枯れした森の朽ち葉の上に置く霜。その上に月光が寒々と照らしていると詠まれた一首。平安末期の代表歌人のひとり、藤原清輔(ふじわら の きよすけ)の一首は隈なく照らす月光によって、白一色の世界を際立たせ、森の静寂さを伝えます。
冬の月が多く詠まれるようになった背景のひとつに『源氏物語』第20帖「朝顔」で源氏が紫の上と共に庭前の雪景色を見て語られた、源氏の言葉の一節が想起されます。
時々につけても、人の心をうつすめる花紅葉の盛りよりも、冬の夜の澄める月に雪の光あひたる空こそ、あやしう色なきものの、身にしみて、この世のほかのことまで思ひ流され、おもしろさもあはれさも残らぬおりなれ。
四季折々、世間の人々が心惹かれる花や紅葉の頃より、冬の夜の澄み切った月の光に雪の照り映える空こそ、色のない景色であるが、身に深く沁みて、おのずと来世のことまで想像されて、見た目の美しさとしみじみとした情感もこれ以上のものはないと感じられる。
と、月光に照らされた白一色の世界に重ね、心象風景を表しました。
さらに、御簾を上げさせて見渡した庭の風景の描写について、
月の隈なくさし出でて、一つ色に見え渡されたるに
と、凍てつく冬の月光が地上を隈なく明るく照らし、白一色の夢幻の風景を浮かび上がらせると表しています。
『古今和歌集』をはじめ、秋の主要な歌題として詠まれていた「月」。冬歌として「冬の月」が初出となったのは、『源氏物語』が書かれた時代に撰定された『拾遺和歌集』冬歌にある恵慶(えぎょう)法師の次の1首です。
天の原 空さへさえや わたるらむ 氷と見ゆる 冬の夜の月 (拾遺和歌集:恵慶法師)
恵慶法師は、天空を平原に見立て、冬の月光は、空を一面氷に覆われたように冴え冴えとみせると詠まれたものです。
その後、『後拾遺和歌集』1首、『金葉和歌集』1首がみられますが、冬の月が『源氏物語』に触発され、勅撰和歌集で多く採り上げられる兆しがはっきり表れたのは、『千載和歌集』に4首みられる頃です。清輔の一首が撰集された『新古今和歌集』になると、21首撰集されており、それ以前の勅撰和歌集にみられない冬歌の主要な歌題となっています。「冬の月」は新古今以降、冬歌の歌題として定着していきます。
多彩で艶やかに彩られるに季節にはみられない、冬ならではの清浄で無彩色の世界。冬の月の濁りのない清らかな情趣が千載~新古今時代、着目されたと思われます。清輔の一首は、朽ち果てた葉が白一色で覆われ、冬の月の凍てつくような神々しい光に浄められた情趣を詠みました。凛として清浄な冬の空気感を詠まれた一首を書で表しました。
抱え咲きのふっくらとした早咲きの玉霞椿。細やかな絞りが華やかで愛らしい椿を和紙の取り合わせと点描によって表し、一輪挿しにあしらいました。
Camellia Japonica ” Tamagasumi ”
冬から春を追って、様々な花種で目を愉しませる椿。清楚な佇まいの白椿を和紙の温かみのある風合いによって表し、和紙を手折った花入れにあしらいました。
”Camellia Japonica”
秋の月 山べさやかに 照らせるは おつるもみぢの かずをみよとか(古今和歌集:よみ人しらず)
Aki no tsuki yamabe sayakani teraseru ha otsuru momiji no kazu wo miyo to ka
秋は月。山の辺りを明るく月が照らしている。その明るさは、散っていく紅葉の数を数えられるほどであると詠まれた一首。『古今和歌集』秋歌下で「紅葉」を歌題とした中でも ” 散紅葉 ” をテーマとした、よみ人知らずの歌の一群に排列されています。
『古今和歌集』秋歌下では、紅葉の散り行く風情を詠んだ、よみ人知らずの歌が多く撰集されています。黄葉を愛でた万葉の時代から、平安の世に移り変わり、黄葉から艶やかな紅葉へと関心が移り、深山に入り、紅葉を愛でるようになったことが反映されていると思われます。
一首では、漆黒の夜に輝く月の光に照り返された紅葉は、澄んだ冷気によって鮮やかに色づいた一葉の形がくっきりと見えるかのようで、冴え渡る月の光の輝きは、冬へと移り行く季節を伝えます。色艶やかな紅葉の季節を月との取り合わせによって風雅な趣に詠まれた一首を書で表しました。
枝が八方に広がり、夏に花を咲かせた後、四角い蒴果をつけ、熟すと薄紅色となり、4裂して種子が現れる様が風情あるマユミ。弾力のある枝ぶりと実を和紙のしなやかな質感と繊細な色合いで表し、陶器の花器にあしらいました。
”Euonymus sied l dianus”