植物と文学:Plant in the literature」カテゴリーアーカイブ

群すすき

穂にいづる み山が裾の 群すすき 籬(まがき)にこめて かこふ秋霧 (山家集:西行)
Ho ni izuru mi yama ga suso no mura susuki magaki ni kome te kakofu aki giri
(Sankashū:Saigyou)

西行の家集『山家集』秋巻上のなかで”霧中草花”と題された一首です。
薄は秋の七草に数えられているように、薄の花穂が秋風に靡く様や露を宿した風情、霧や月と取り合わせるなど自然事象を背景に歌に詠まれ、秋の情趣を伝える花として古来、愛でられてきました。

平安中期の『枕草子』の中で、薄について清少納言は次のように評しています。

秋の野に おしなべたるをかしさは 薄にこそあれ、穂先の蘇枋(すおう)にいと濃きが、朝霧にぬれて うちなびきたるは、さばかりの物やある。(第67段)

秋の野で趣深い秋草は薄であると述べ、しっとりとした朝霧の中で眺めるように、自然を背景に薄を観照することで花穂の風情は輝きを増し、心に響きます。

西行の一首は題しているとおり、秋霧に包まれた薄の群落を詠んでいます。
山裾に広がる花穂が立ち上がった薄の群れは霧が垣根となって包み隠し、幻想的な情景が浮かび上がります。

薄の穂波を隠す霧を籬(まがき)に見立てることで、薄はたおやかで優美な景物として抒情豊かに引き立てられます。

秋の野の気配を情趣豊かに伝える一首を書で表しました。

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萩に蜩

人もがな 見せも聞かせも 萩の花 咲く夕かげの ひぐらしの声(千載和歌集:和泉式部)
Hito mo gana mise mo kikase mo hagi no hana saku yufukage no higurashi
no koe (Senzaiwakashū: Izumisikibu)

秋を伝える萩の花、そしてひぐらしの声に寄せる想いを詠まれた一首。平安中期に紫式部と同時代に活躍した女流歌人、和泉式部の一首です。

一首は『千載和歌集』の秋上部に撰集されています。『千載和歌集』は平安末期、後白河院から撰進の命を受けた藤原俊成(ふじわらのとしなり)が撰者となりました。和泉式部は藤原俊成をはじめ、源俊頼・崇徳院など、当代の歌人に並んで入集歌数が多く、 この勅撰集を代表する歌人の一人となっています。萩とひぐらしを詠んだ一首には、抒情を重んじた俊成の志向が窺えます。

夕暮れ、たおやかな枝に可憐に咲く萩の花、そして心に響くひぐらしの声が醸し出す秋の情趣を誰かと分かち合いたいという思いを歌いあげ、感動が真直ぐに伝わってきます。

しみじみとした秋の佇まい、感銘が心に沁みる一首を書で表しました。

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杉木立

白雲は 夕べの山に おり乱れ なかば消えゆく 峰の杉むら (玉葉和歌集:伏見院)
Shirakumo ha yufube no yama ni ori midare nakaba kieyuku mine no sugi mura
(Gyokuyouwakashū:fushimi no in)

『杉』と題して詠まれた一首。白雲が立ち上る峰々に立つ杉木立を暮色の中で捉えた京極派の代表歌人、伏見院の御歌です。『新古今和歌集』以後、目新しさを見い出せなくなっていった歌壇に新風を興したのが、藤原定家の曾孫にあたる京極為兼が中心となった京極派と呼ばれる流れです。

伏見院の院宣によって京極為兼が撰定した『玉葉和歌集』の中で、伏見院の一首は雑部に撰集されています。暮れ方、薄明の静けさの中、立ち昇る雲、乱れかかる雲の動きを捉えたところに京極派らしい歌風が表れています。また、「杉」を題としたところに伏見院の新たな歌境を拓こうとした京極派としての志向が表れています。生きた自然の風景を純粋に感受され、新味のある清新な歌風で鮮やかに詠まれています。

夕暮れの光線の微妙な色調の変化の中で眺めることで、谷間から立ち昇る白雲が漂う中、杉の林が濃淡でぼかされ、深遠な風景が広がります。刻一刻と変化していく夕暮れ、折り乱れる白雲の動きによって、天に向かい真直ぐに立つ杉の荘厳さが心に深く留まります。広やかで清澄な風趣を伝える一首を書で表しました。

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容花

高円(たかまど)の野辺の容花(かほばな)面影に 見えつつ 妹(いも)は
忘れかねつも ( 万葉集:大伴家持 )
Takamado no nobe no kaho bana omokage ni mietsutsu imo ha
wasure kanetsumo( Manyoushū:Ōtomo no yakamochi )

奈良の平城京の郊外、高円山の麓に広がる野辺に咲く容花(かおばな)。その花に想いを寄せる女性の面影を重ね、詠まれた一首。

万葉の時代、長閑で美しい高円山とその山麓は、貴族たちが風流な野遊びを愉しむ清遊の地として歌によく詠まれました。家持の一首は、高円の緑に覆われた風雅な美しい風景の中に浮かび上がる、容花の清楚で愛らしい姿が際立ってみえます。一首に詠まれた容花は定説のとおり、優しく涼やかな佇まいの昼顔が相応しく思います。

高円の野辺で慎ましく咲く、昼顔の花に寄せた一首を書で表しました。

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